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自民王国に異変、漂流する保守票 岸田政権の命運かかる衆院島根1区補選ルポ

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衆院島根1区補欠選挙の自民党候補の応援に入り、聴衆とグータッチする岸田文雄首相=21日、松江市(田中一世撮影)

衆院3補欠選挙(28日投開票)で自民党が唯一候補者を擁立した島根1区は、岸田文雄政権の浮沈がかかる与野党一騎打ちの総力戦になっている。島根県は小選挙区制が適用された平成8年の衆院選以来、自民が議席を独占してきた。今回は派閥パーティー収入不記載事件の逆風を受け「自民王国」に異変が起きている。

「静かな選挙」

「自民の政治とカネの問題で大きな政治不信を引き起こしてしまっている」。21日、松江市郊外のスーパーの駐車場。岸田首相(自民総裁)は自民新人、錦織功政氏の応援演説で陳謝した。

陣営が支持団体などに動員をかけ、集まった聴衆は1千人余り。演説を始めるにあたり首相が紹介された際、拍手で盛り上げたのはその数分の一程度に過ぎなかった。

とはいえ批判のやじも飛ばない。「恥ずかしがり屋の県民性」(陣営幹部)ともいえるが、東京から応援入りした自民関係者は「熱気に欠ける、静かな選挙だな」と印象を語った。

今回の補選は自民の細田博之前衆院議長の死去に伴い実施。細田氏は不記載事件の震源地、安倍派の元会長である。

「『自民党に反省してほしいから自民候補に投票したくない』という友人もいる」。錦織氏の親族はこう明かす。

首相は21日、松江市の隣の同県安来市で車座対話に臨み、参加者の男性から「党員として恥ずかしい気持ちでいっぱい」と痛烈な一言を浴びた。

自民公認がマイナス

自民の閣僚経験者は「錦織さんが細田さんの後継であること、自民党公認であることがマイナス」と指摘する。

約2週間前、党本部から錦織氏陣営に首相来援の逆オファーが届いた。首相は自民の「顔」であり、有権者に不記載事件を想起させる存在だ。現地の地方議員からはこんな反発が上がった。

「首相に来てもらってもプラスにならない」

報道機関の情勢調査で錦織氏は劣勢で、自民議員も街頭演説で「いかんせん負けている状況」(舞立昇治参院議員)と公言している。そんな中、小渕優子選対委員長がほぼ張り付き、石破茂元幹事長や小泉進次郎元環境相ら不記載事件のイメージが薄い無派閥議員が応援入りしている。

「悪いのは今の自民党です。悪いのは錦織さんではない」。小泉氏は20日、松江市での街頭演説でこう訴えた。

支持者をつなぎ止めるのは過去の記憶か。首相は街頭演説で、事件や賃上げなどに先んじて、鬼籍に入った島根県選出の大物議員に言及した。

「細田博之先生はいうまでもないが、竹下登先生(元首相)、竹下亘先生(元復興相)、青木幹雄先生(元官房長官)。そうそうたる先輩方がそろっておられた」

与党支持者に立民支持呼びかけ

衆院島根1区補欠選挙の立憲民主党候補の応援に入り、聴衆と握手する泉健太代表=21日、松江市(田中一世撮影)

首相と同じ21日、立憲民主党の泉健太代表も、立民元職の亀井亜紀子氏の応援のため島根1区に入った。JR松江駅前(松江市)での雨に打たれながらの演説は、高揚感があふれ出ていた。

「立憲民主党だけの戦いではない。政治改革全体の戦いなんだ」

立民幹部は、自民の不記載事件批判を徹底している。ターゲットは明確だ。泉氏は演説で与党支持者に呼びかけた。

「本当は今の自民党政治に嫌気が差しているんじゃないですか。公明党支持の皆さん、自民党を応援してきた皆さん、今こそ一緒に立ち上がりましょうよ」

ただ、駅前にも関わらず聴衆の数は首相の半分程度の印象だった。松江市など島根1区エリアは中選挙区時代を含め60年以上、自民の細田吉蔵氏と博之氏の親子が議席を得てきた。投票用紙に「亀井」と書いてもらうのは簡単ではない。

自民投票が「習慣」

亀井氏の父は、島根県が地盤だった亀井久興元国土庁長官。自民の国会議員だった当時の人間関係をたどり、支持を依頼しているが、漂流する保守票を取り込めている実感はないという。

「長年の自民党支持の人も『今度ばかりはひどいよね』と言うが、こっちに投票してくれるかというと必ずしもそうではない。投票に行きたくない人が増えている」

自民を批判しつつも「やはり自民に入れようかな」と話す有権者もおり、理由を聞くと「それが習慣ですから」との答えが返ってきたという。

業界団体の推薦状が壁一面に貼り出された錦織氏の事務所とは異なり、亀井氏の事務所の推薦状は数えるほど。立民の地方議員数も自民に比べはるかに少なく、足腰は弱い。21日、泉氏の演説会場近くで陣営スタッフからチラシを受け取り、「どこの党ですか?」とピンと来ていない様子の通行人の姿がみられた。

野田佳彦元首相、蓮舫参院議員、辻元清美代表代行ら著名議員が応援入りしている。陣営幹部は「党本部は気合が入っている。現場は投票に行くようお願いし、投票率を上げることに尽きる。リードしているという手応えはない」と語る。(田中一世)

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